中原エリアに住む・働く・生きる魅力的な人たちをインタビュー。がんばる誰かの日常が、誰かの背中をそっと押すような、そんなきらめく人たちをご紹介します。

人の暮らしで使われていくことで、製品は創り手の想像を超えた可能性を生き始める。誰かのために、そして誰かとともに創り出す体験が教えてくれたこと 【後編】 :佐野 正 (佐野デザイン事務所 代表 / プロダクト デザイナー)

佐野 正 氏

中原エリアにデザイン事務所を構え、多数のユニークなオリジナル製品を生み出しているプロダクト デザイナーの佐野 正さん。最近、活動の場がまた一つ広がったそう。DIYの楽しさを手軽に体験することができる「中原工房」でワークショップなども行っています。今回は中原工房でのワークショップ体験を中心に、人と「関わって生まれる」ものづくりについてうかがいました。

 
佐野 正
佐野デザイン事務所代表、プロダクト デザイナー。1966年、東京生まれ。
桑沢デザイン研究所 工業デザイン研究科卒業後、デザイン事務所、電気メーカーを経て独立。1995年、佐野デザイン事務所を設立。日用品〜車両などのプロダクト デザインに取り組む。ユニークで実用的、琴線にふれるデザインを目指す。
・佐野デザイン事務所
 http://www.sanodesign.jp/
・公益社団法人 日本インダストリアルデザイナー協会 東日本ブロック長
 http://www.jida.or.jp
・Design&trade震災復興活動 代表 
 http://www.facebook.com/designtradejp
・NPO法人/AREEVエコエネルギーによる地域交通システム推進協会メンバー
 

企画・開発・製造・販売まで製品のライフサイクルすべてを手掛けるのは、消費者それぞれの毎日にプロダクトを送り届けたいという想いから

前回でお話しした「クッションサン」は、私がコンセプトから企画・開発を行い、製造・販売までしている製品です。一般的にプロダクト デザイナーという仕事は、製品をつくるまでが主な仕事で、販売や流通まではタッチしないことが多いと思います。ですが、せっかくなら少しでもたくさんの方の手元に届けたい、日常の生活で使っていただきたい、と考えるようになり、思い切って自社で販売・流通まで手掛けるようになりました。

販売するとなると、製品のネーミングは非常に重要です。親しみやすく、プロダクトの本質を一発で表現できるキャッチーなネーミング開発も心がけている一つです。アート作品ではないのですから、どんなに考え抜かれ優れた製品を誕生させても、それが実際に使われなければ、その秘めた機能性や素晴らしさが多くの人に理解されることはありません。でも、多くの人の生活のなかで役立つ製品となれば、それだけたくさんの方にその素晴らしさを伝えることができるのです。だからこそ、「こんなものがあったら楽しいだろうな」という発想の始まりから、販売を経て消費者のもとで製品がそれぞれの使われ方をして新たな物語を生きることを期待しているのです。

製品に「自分らしさ」を込める “ものづくりの歓び” 。参加者と一緒に創りあげるワークショップという新たなチャレンジ

佐野 正 氏今実感しているのが、お客様は大量生産品に飽きてきているということです。規格化された大量生産品ではなく、オリジナリティのあるものを求める傾向にあります。そうした背景もあり、 DIY などで自己表現の欲求を満たしたいという人が増えているのだと思います。また、自ら創った唯一のものだからこそ価値がある。そのようにして、使い捨てではなく、ものに愛着を持つ時代になっているとも言えるでしょう。

そんな中で、昨年、チャレンジの新しい扉が開きました。地元新聞に取り上げられたことが縁となり、中原区にある建築会社が手掛ける 「中原工房」 と協働することになりました。私の事務所と中原工房が偶然ものすごくご近所だったことや、記事をご覧になって、 “ものづくり” という観点で相通ずるものがありそうだと感じていただいたようで、お声がかかった次第です。

中原工房に参加するにあたり、私の持ち味のプロダクト デザインと、木工ベースでのものづくりをどう掛け算していくべきか悩み、考えました。これまでのプロダクト デザイナーとしての仕事は自分のなかである程度完結できる制作でしたが、中原工房での協働はまさにチャレンジ。そこで、工房オリジナルの制作物を参加者と一緒に作り上げる 「ワークショップ」 用のアイテムをいくつか検討しました。 「かべつく」 、 「床座椅子」 、 「古木再彩」 という中原工房オリジナルのキットを用意し、ベースデザインとなる基本形はありつつも、参加者の創造性が発揮できる、それぞれが思い思いの仕上げをしていくスタイルのものになりました。

このワークショップでは、ものづくりのプロではない人たちが 「ものづくり・工作の楽しさ」 を実感でき、きちんと完成まで持っていくことができるよう、どう余白を残していくかということも、私にとっては大きなチャレンジでした。キットをもとにその余白部分を参加者が思い思いに仕上げることで、予想もしなかった新たなアートができあがるのです。

 

協業によって得た新たな発見で、 “ものづくりの歓び” が活性中!伝えながら成長していく好循環へ

地域の皆さんと共同でものを作り上げていくワークショップという体験は、私自身も大いに楽しみ、多くのことを学ばせてもらっています。プロのデザイナーにはない、生活者ならではの自由な発想に気づきを与えてもらったり。今後もデザインを通して、一人でも多くの方に喜んで使っていただき、生活に役立つことはもちろん、ちょっとした喜びや楽しみをプラスできるものを創り出していきたいと考えています。

ワークショップや DIY アイテムはさまざまなものを用意していますので、気楽に工房へ遊びにきて欲しいです。もっと面白くて新しいアイテムを求めて、日々開発中です。このワークショップだけではなく、実際に工房にお越しになれない方々へも、ものづくりの楽しさを味わってもらうための方法はないものかな、と今模索しているところです。自宅で気軽に何かを作る習慣ができたら素敵でしょうね。ワークショップのたびに私自身もさまざまな発見があるので、創りたいもののプランがまだまだあるんですよ。

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